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札幌高等裁判所函館支部 昭和30年(ナ)2号 判決

原告 浜口幸人

被告 北海道選挙管理委員会 代表者委員長 笠原利重

指定代理人 高木勇 外二名

主文

原告の請求中昭和三〇年四月三〇日施行された函館市議会の議員及び長の函館市全部における各選挙の効力に関して原告がなした訴願を却下する旨の被告委員会の裁決の取消を求める請求は、これを棄却し、右各選挙の無効確認を求める訴は、これを却下する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

原告は、「昭和三〇年四月三〇日施行された函館市議会の議員及び長の函館市全部における各選挙の効力に関して原告がなした訴願を却下する旨の被告委員会の裁決はこれを取消す、右各選挙は、いずれもこれを無効とする。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として

一、原告は、昭和三〇年四月三〇日函館市において施行された函館市議会の議員及び長の選挙における選挙人であるが、右選挙の効力に関して、原告は、昭和三〇年五月一四日訴外函館市選挙管理委員会(以下単に訴外市委員会と称する。)に対して異議の申立をしたところ、訴外市委員会は、同年六月一一日右異議は、その申立期間を経過した不適法な申立であるとしてこれを却下する旨の決定をした。そこで、原告は、さらに同年七月一日被告委員会に対して訴願したところ、被告委員会もまた昭和三〇年八月五日同様の理由で右訴願を却下する旨の裁決をなし、同月一四日その裁決書を原告に送達した。

二、しかし、本件異議申立は、後記のとおり適法であつて、本件選挙は、選挙を行う事由なくして又は公職選挙法第三四条第三項に違反して施行したものであつて、そのため選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあること明らかであるから、右選挙は、いずれも無効であり、同裁決は、取り消さるべきものである。すなわち

三、公職選挙法第三四条第三項所定の再選挙等の禁止事由が存在するかぎり、当該異議又は訴の対象となつている選挙によつて選出された議会の議員の資格は、一面未確定のものではあつても、その選挙の有効か無効かが実質的に確定するまでは、たとえその四年の任期が至つてもなお存続し、他面該選挙によつて選出された地方公共団体の議会の議長は、その資格が未確定であるため地方自治法第一四五条による長の退職の申出を受理する権限を有しないと考えるから(この場合長が退職しようとすれば、選挙管理委員会に対して当選の辞退を届け出るべきである。)かりに、長が右議長に退職の申出をしてもその効力を生じない。したがつて、選挙又は当選の効力に関する訴訟が係属している間は、議員の任期満了又は地方自治法第一四五条による長の退職の申出があつたことに因る選挙は、これを行い得ないものと解すべきところ

四、本件選挙は、函館市議会議員選挙については、昭和二六年四月二三日施行した選挙によつて選出された議員が任期満了したことに因り公職選挙法第三三条第一項に基き、同市長選挙については、同時に施行した選挙によつて選出された宗藤大陸市長が昭和三〇年四月一四日退職したことに因るものとして同法第三四条第一項に基いて、同時に昭和三〇年法律第二号地方公共団体の議会の議員及び長の選挙期日の臨時特例に関する法律によつて、本件各選挙の告示の日を昭和三〇年四月一五日選挙期日を同月三〇日と各定めて施行した。

五、しかるに、本件選挙を必要とするに至つた選挙である昭和二六年四月二三日施行の函館市議会議員選挙及び同時に施行した同市長選挙に対しては、その各選挙人であつた訴外垣田初三郎、野塙竹治郎、桜井義郎、佐藤銀三、飯島林次郎及び原告において、札幌高等裁判所函館支部に対して、昭和二八年一月二一日その無効確認を求める訴(昭和二八年(ナ)第一号選挙無効確認請求事件)を提起し、現に札幌高等裁判所に昭和二九年(ナ)第一号選挙無効確認請求事件(後記のように最高裁判所から差し戻された。)として係属中である。

六、さすれば、前記市会議員の任期は満了せず、宗藤大陸市長の退職申出は、右選挙無効確認請求事件の対象となつている選挙によつて選出された函館市議会議長高木直行になしたものであるから無効であつて、宗藤大陸は、依然として市長たる資格を保有している。

七、したがつて、本件選挙は、選挙を行うべき事由なくして施行し、又は本件選挙を必要とするに至つた選挙の効力に関する訴訟の係属中施行したものというべく、そのかしは、極めて重大である。

八、しかして、本件市長選挙の候補者は、その選挙によつて選出された現市長吉谷一次、前市長宗藤大陸及び原告の三名であつたが、宗藤大陸及び原告は、本件選挙は、前記障害によつて施行し得ないものと解していたため、吉谷一次に比較してその選挙告示前の選挙運動の準備に立ち遅れ、同市議会議員選挙に立候補した垣田初三郎と同飯島林次郎らもまた右市議会議員選挙は施行し得ないものと解していたため、他の候補者に比較して同様選挙運動の準備に立遅れ、いずれも落選(原告は選挙期日前立候補を辞退)したが、本件選挙に上述の障害がなく、前記特例法に基いてこれを正当に施行し得るものとしたならば、原告らは、十分選挙運動の準備を完了して選挙に臨み得たものであつて、そのことは、ただちに候補者の投票数に影響を来し、本件選挙の結果に異動を及ぼしたこと明らかである。

九、よつて、原告は、本件選挙は、違法無効であると信ずるので本訴に及んだと述べ

十、被告の答弁事実に対して

(一)  (イ) 原告の本件選挙に関する異議申立書が、本件選挙の日から一四日を経過した昭和三〇年五月一五日午前一〇時頃訴外市委員会事務局に到達したことは認めるが、本来異議申立期間の計算は、発信主義によるものであるから、期間内にその申立書を発送することを以て足るものである。このことは、訴願法第一〇条、公職選挙法第二一九条によつて準用される民事訴訟法第一七三条の規定に徴しても明らかであつて、原告は、本件選挙に関する異議申立書を昭和三〇年五月一四日午後七時四〇分頃函館郵便局に速達書留郵便を以て差し出したものであるから、右異議申立書は、適法な期間内に提出したものというべきである。

(ロ) かりに、異議申立の期間の計算は、到達主義にかかるものと解しても、原告は、同日午後四時五五分訴外市委員会事務局の事務室が所在する函館市役所に右異議申立書を提出するため赴いたところ、訴外市委員会は、さきに原告が同委員会に対して本件選挙は、違法であるから、その執行を停止されたい旨申し入れたことがあるため、原告が本件選挙に対して異議を申し立てることを予知し、原告の異議申立書の提出を事実上不可能ならしめるため、同日正午頃全職員退庁し、同市役所の門扉全部を閉鎖して庁内に立ち入らしめなかつたので、やむを得ず右異議申立書を郵便で差し出したものであるから、右異議申立期間を徒過した責任は、いつに訴外市委員会が負うべきであつて、被告は、訴願法第八条第三項の規定をまつまでもなく当然原告の異議申立を適法なものとして受理すべきである。

(二)  かりに、右理由がないとしても、原告は、前記(一)(イ)で述べたように、函館郵便局に原告の異議申立書を速達郵便で差し出したのは午後七時四〇分であつて、郵便規則第一〇〇条によれば、配達郵便局に午後八時までに到着した速達郵便物は、その日のうちに配達すべきものであるのに、同郵便局は、これを遅滞し、訴外市委員会に翌日午前一〇時頃配達した。したがつて、右異議申立期間の徒過は、同郵便局の責任であつて、原告の過失によらないものであるから、被告は、訴願法第八条第三項によつて原告の異議申立を適法なものとして受理すべきである。

(三)  被告主張のように、原告及び垣田初三郎外四名の名において昭和三〇年四月一四日札幌高等裁判所に対して、昭和二九年(ナ)第一号選挙無効確認請求事件の取下書が提出されたことはこれを認めるが、

(イ)  右取下書は、原告及び垣田初三郎外四名の訴訟代理人弁護士臼木豊寿が提出したものであるところ、垣田初三郎は、右訴を同裁判所函館支部に提起した当初は、同弁護士に対して、訴取下の権限をも与えたが、昭和二八年六月一日同裁判所において原告ら敗訴の判決を言渡し、原告らはこれに対して上告し、昭和二九年九月一七日最高裁判所において原判決を破棄する。右事件を札幌高等裁判所に差し戻す旨の判決を言渡し、該事件が同裁判所に係属するに至つた後にはその権限を与えておらないのであるから、(垣田初三郎が弁護士臼木豊寿らに対して昭和二八年一月二日提出した訴訟代理委任状には、民事訴訟法第八一条第二項の事項をも委任する旨の記載があるが、右事件差し戻後昭和三〇年一月二四日提出した委任状には右の旨の記載がない。)右訴の取下は、その効果を生じない。

(ロ)  かりに、右訴の取下は、その効果を生じたとしても、札幌高等裁判所は、昭和三〇年四月一四日右事件の口頭弁論を開いた後、期日を延期し、次回期日を同月一九日と指定告知したのであるから、同裁判所は、同日その口頭弁論を開く義務を有し、右訴の取下の効果は、該弁論を開いた後はじめて生ずるものと解すべきである。したがつて、本件選挙の告示の日を右訴の取下の効果が発生する以前に指定したのは違法である。

(ハ)  かりに、右訴の取下の効果は、昭和三〇年四月一四日発生したとしても、公職選挙法第二二〇条第一項に掲げる選挙は、同条所定の通知があるまで、施行できないものと解すべきところ、札幌高等裁判所長官が、同条所定の者に対して右訴の取下があつた旨通知したのは、昭和三〇年四月一八日であるから、その通知の日の前に告示した本件選挙は、なお違法である。

旨答えた。

被告指定代理人は、原告の請求を却下する旨の判決を求め、答弁として、

一、原告主張の事実中一の事実、四の事実、五の事実中原告らが昭和二八年一月二一日札幌高等裁判所函館支部に対してその主張の選挙の効力に関する訴を提起し、該訴訟は、同裁判所に昭和二八年(ナ)第一号選挙無効確認請求事件として係属したが、後に原告主張のような経過で札幌高等裁判所に昭和二九年(ナ)第一号選挙無効確認請求事件として係属したこと、六の事実中宗藤大陸市長が、原告主張の日その主張の選挙によつて選出された函館市議会議長高木直行に対して退職の申出をなしたこと、八の事実中本件市長選挙に現市長吉谷一次、前市長宗藤大陸及び原告が立候補し、函館市議会議員選挙に垣田初三郎らが立候補したが、吉谷一次を除くその余の原告主張の候補者らがいずれも落選(原告が立候補を辞退)したことはこれを認めるが、その余の事実は争う、すなわち

二、本件異議申立は、不適法である。本来選挙又は当選に関する異議申立の期間の計算は、到達主義を原則とするものであつて、異議申立書を郵便で差し出すことができるのはいうまでもないが、郵便でこれを差し出した場合でも、それは異議申立期間内に選挙管理委員会に到達することを要する。このことは、公職選挙法第二一六条が訴願法第一〇条第二項の適用を特に除外したことからも明らかであつて、公職選挙法第二〇二条第一項によれば選挙の効力に関する異議の申立ができる期間は、選挙の日から一四日である。したがつて、本件選挙の日は、昭和三〇年四月三〇日であるから、異議申立は、遅くも同年五月一四日午後一二時までにしなければならない。しかるに、原告の異議申立書が、訴外市委員会に郵便で送達されたのは、その翌日の午前一〇時である。さすれば、原告の異議申立は、既にこの点において不適法であつて、訴外市委員会がその理由によつて原告の異議申立を却下する旨の決定をなし、被告がその訴願を却下する旨の裁決をなしたのはもとより当然である。

三、かりに、原告の異議申立は、適法であつたとしても、本件市議会議員選挙は、昭和二六年四月二三日施行された選挙によつて選出された議員の任期が昭和三〇年五月二日満了することに因り、本件市長選挙は、同時に施行された選挙によつて選出された宗藤大陸が昭和三〇年四月一四日退職したことに因り、前記特例法に基いて施行したものであつて、右札幌高等裁判所昭和二九年(ナ)第一号選挙無効確認請求事件は、昭和三〇年四月一四日被告の同意を得て原告及び垣田初三郎外四名において適法に取り下げたものであるから、本件選挙は、なんら違法のかどはない。

四、その余の原告主張の事実及び答弁事実は否認する。

旨答えた。

立証として

一、原告は、甲第一ないし第四号証、同第五号証の一、二、同第六ないし二〇号証(その中第八号証は写)同第二一、二二号証の各一、二(第二二号証の一、二は写)同第二三、二四号証(第二四号証は写)を提出し、証人南場依映、持木金太郎(第一、二回)、村形貞三郎(第一、二回)、伊藤文吉、榎蔵一、吉村敬助、浜田重雄、脇坂定太郎、宗藤大陸、泉山栄一、池田源之助の各証言及び原告本人尋問の結果を援用し、乙第二、三号証、同第四、五号証の各一、二の成立を認め、同第六号証の一ないし一二、同第七号証は、いずれもその原本の存在並びに成立を認めると述べた。

二、被告指定代理人は、乙第一号証の一ないし五、同第二、三号証、同第四、五号証の各一、二、同第六号証の一ないし一二(いずれも写)同第七号証(写)を提出し、証人中村長一、岡田巌、鈴木寛治、野沢洋、進士薫、山本義晴、寺永秀夫の各証言及び検証の結果を援用し、甲第一ないし第四号証、同第五号証の一、二、同第七号証、同第九ないし第一九号、同第二一号証の一、二の各成立を認め、同第六号証が新聞紙であることは認める。同第八号証同第二二号証の一、二、同第二四号証の原本の存在及びその成立を認め、同第二三号証が昭和三〇年四月三〇日施行した函館市長選挙のポスターであることはこれを認めると述べた。

理由

原告主張一の事実は、当事者間に争がない。(本件訴が、訴願裁決書交付の日から三〇日以内である昭和三〇年九月八日当庁受付を以て提起されたことは記録中訴状に押印された当庁の受付印によつて明らかであるから、本訴は、出訴期間の点は適法である。)よつて本件異議の申立が適法であるかどうかについて考えるに、先ず、公職選挙法第二一六条が、「本章に規定するものを除く外訴願法第六条、第七条第一項、第九条、第一〇条第一項、第一三条及び第一六条の規定を適用する。」と定めたのは、そこに掲げられていない訴願法の規定は、すべて選挙に関する訴願に適用しない趣旨と解される。けだし、行政法上訴願を許すものについて、訴願法が適用されることは明文をまたないわけであるのに、本条で特に一定の条文を限つて適用するとしているのは、その余の訴願法の規定は、これを適用しない趣旨と解する外はないからである。このように、公職選挙法第二一六条が特に訴願法第八条第三項及び第一〇条第二項の適用を除外したのは、本来選挙争訟は、選挙の公正を確保するためであつて、各選挙人や候補者の個人的利益の保護を目的とするものではないから、必ずしも争訟権者の個人的事情をしん酌する必要がなく、また、選挙又は当選の無効の裁決や判決は、公職に就いた者の地位を変動させ、政治的、又は社会的関係において重大な結果を招来するものであるから、世人の予期し得ない時期に訴願の提起が許されるのでは、著しく法的安全を害するため、わが法制が隔地者間の意思表示について、到達主義を原則としていることの例外を認める必要がないとの考慮に基くものと解される。さすれば、公職選挙法第二一六条は、選挙又は当選の効力に関する訴願提出の期間の計算については、特に郵便を以てすると否とを問わず到達主義によることを明示したものと解すべきである。したがつて、少くとも天災地変等によつて通信交通がと絶する等特別の障害がないかぎり郵便を利用する者は、平常の状態において生ずることがある延着等の危険は、これを負担しなければならない。もつとも、公職選挙法第二一六条は同法第二〇二条第二項の訴願についてのみ規定しているが、同条第一項の異議の申立について訴願と別異に解すべき理由はないから同法第二一六条の規定は同法第二〇二条第一項の異議申立に類推適用されるものと解する。本件についてこれをみるに、本件選挙期日が昭和三〇年四月三〇日であつたこと、原告は、本件異議申立書を郵便を以て差出したところ、該申立書が本件選挙の日から一四日を経過した昭和三〇年五月一五日午前一〇時頃訴外市委員会事務局に配達されたことは当事者間に争がなく、右異議申立期間の徒過について前記特別の障害があつたことはこれを認める証拠はない。なお、同委員会が、原告の異議申立書の提出を事実上不可能ならしめた事実については、これを認めるに足る的確な証拠はない。かえつて、証人持木金太郎(第一、二回)岡田巌、中村長一、鈴木寛治、野沢洋、進士惠、榎蔵一、寺永秀夫の各証言及び同人の証言によつて函館市役所正面玄関に表示された案内掲示板の写真と認められる乙第一号証の二、同市役所南玄関に掲げてあつた案内掲示板の写真と認められる同号証の四、及び宿直室の案内掲示板の写真と認められる同号証の五、並びに検証の結果を合せると、本件選挙の異議申立期間の最終日である昭和三〇年五月一四日当時訴外市委員会事務局は、函館市役所庁内に事務室をおき、当日は、土曜日であつたが、同委員会委員長持木金太郎外数名の職員は、事務処理のため同日午後五時頃まで執務し、その後は、函館市役所の当直員に同委員会の受付事務を委託し、当日は函館市主事鈴木寛治、同市書記野沢洋が当直していたこと、同市役所は、一般職員退庁後は、表玄関を閉鎖したが、同所に「御用の方は、南側玄関に廻られたい。」旨掲示し、南玄関には「当直室右側です」との掲示板を掲げ同玄関から右約四間半の個所に当直室入口があつて、その入口の上方に「当直室入口」と書いた木札を取り付けてあり当日午後一一時頃まで同入口を開放して所用者の便をはかり、当日の当直員は、同日午後二時頃訴外寺永秀夫外一名申請の死体埋火葬認可事件二件を受付けた事実が認められるので、原告にして通常人の用いる注意を以てすればたやすく当日本件異議申立書を訴外市委員会に提出できたことを推認するに十分であつて、函館郵便局が、本件異議申立書の配達を特に遅達した事実もこれを認めるに足る証拠はない。はたして以上のとおりとすれば訴外市委員会が本件異議申立をその期間を経過した不適法な申立として却下し、被告が同訴願を同様の理由で却下する旨の裁決をしたのはもとより正当である。

よつて、原告の請求中被告のした裁決の取消を求める請求は、理由がないものとしてこれを棄却する。しかして公職選挙法第二〇二条による異議の申立又は訴願が、同条の規定に違反した不適法なものであれば、これを前提として提起された訴訟もまた不適法なものと解すべきところ、本件選挙の無効確認を求める訴は、前段認定のとおり結局適法なる異議、訴願を経ないものであるから不適法な訴として却下すべきものとする。さらに附言するに、本件訴の取下は、有効になされたものと考える。けだし、審級代理の場合でも、事件が上級審から差し戻されて原審級の手続が再開されれば、原審の代理権が当然復活すると解すべきであるから、かりに、垣田初三郎が、昭和二八年(ナ)第一号選挙無効確認請求事件の差し戻し後さらに提出した訴訟代理委任状に民事訴訟法第八一条第二項の事項を委任する旨の記載が欠けていたとしても右訴が札幌高等裁判所函館支部に提起された当時の弁護士臼木豊寿に対する訴訟代理委任状に訴取下の権限を与えていたことは原告の自認するところであるから、改めて、その権限を制限したと認められる特別の事情の認められない本件においては、弁護士臼木豊寿は、右訴取下の権限を有するものと解すべきである。また本件市長選挙に立候補した原告は、その選挙期日前これを辞退し、宗藤大陸及び本件市議会議員選挙に立候補した垣田初三郎らが、原告主張の事由に因り選挙準備に立ち遅れたため落選したと認める証拠はまつたくなく、かえつて証人宗藤大陸の証言によると、同人は、本件選挙は、適法に行われたと信じている事実が認められる。さすれば、かりに、本件選挙が公職選挙法第二二〇条所定の通知前施行されたことが違法であるとしても、選挙の結果に異動を及ぼすおそれがある場合とは認め難いし、その余の原告主張の見解は採用し難い。

よつて訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決した。

(裁判長判事 居森義知 判事 磯江秋仲 判事 水野正男)

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